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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)2679号 判決

主文

被告人を禁錮八月に処する。

本裁判確定の日から三年間・右の刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四二年四月一五日施行の大阪府議会議員選挙に際し、同府豊能郡・箕面市からその立候補をした石伏義雄の出納責任者であるが、

第一、一、同年四月八日ごろ、箕面市箕面五四四番地の武藤三治郎方において、同候補者の選挙運動者である同人から右石伏候補に当選を得しめる目的のもとに選挙運動者に対する同候補者のため投票並びに投票取纏め等の報酬などの資金とする目的のもとに交付されるものであることを知りながら、現金一〇万円の交付を受け

二、同年四月一〇日ごろ、前記武藤三治郎方において、同人から前記同趣旨のもとに交付されるものであることを知りながら、現金一〇万円の交付を受け

三、同年四月一四日ごろ、前記武藤三治郎方において、同人から前記同趣旨のもとに交付されるものであることを知りながら、現金一〇万円の交付を受け

四、同年四月一七日ごろ、前記武藤三治郎方において、同人から右石伏候補のため投票並びに投票取纏め等の選挙運動をした選挙運動者らの報酬などの資金とする目的のもとに交付されるものであることを知りながら、現金一〇万円の交付を受け

第二、同年四月一七日ごろ箕面市箕面一、三三四番地の一の久国福松方において、右石伏候補の選挙運動者である同人に対し同選挙区の選挙人である別表(一)記載の大住フサヱほか二五名が、同候補者のため、投票並びに投票取纏め等の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもつて同人らに供与されたい旨依頼し、その資金として、現金三一万七、〇〇〇円を交付し

第三、同年四月一七日ごろ、前記第二記載の久国福松方において、同人に対し、同人が右石伏候補のため投票取纏め等の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもつて、現金五万円の供与の申込みをし

第四、冒頭記載の大阪府議会議員選挙の前記選挙区における公職選挙法一九六条の規定により大阪府選挙管理委員会から告示された額が一〇三万九、二〇〇円であるのにかかわらず、同年三月三一日から同年四月二八日までの間に、箕面市箕面三五九番地の立候補者石伏義雄の選挙事務所等において、同候補者の選挙運動に関し、右告示額を超えた合計一四〇万一、九四四円(支出分の明細は別表(二)のとおり)を支出し

たものである。

(証拠の標目)(省略)

一、判示第一の各受供与の公訴事実をいずれも受交付と認定した理由。

前掲の武藤三治郎・久国福松・被告人の捜査官に対する各供述を総合すると、被告人らは今回の府議選で箕面地区より立候補した杉田恵一が相当激しい饗応接待等を行つていることから、石伏を当選させるための一方法として連絡所等に詰める運動員らに対しその労をねぎらうことが石伏候補の票集めになる等と考え、運動員らに対する報酬等に支出する費用のためと暗黙のうちに了解され、武藤三治郎から被告人に対し現金一〇万円が四回にわたつて手渡されたこと。したがつて武藤においては被告人に、被告人においては自身に何らの実質的な利益をとどめるための両者間での授受ではないことが明らかに認められるので、供与罪を構成しない。

二、判示第二事実のとおり供与金額を三一万七、〇〇〇円と認定した理由。

被告人の捜査官に対する供述によれば、検察官主張のとおり被告人が現金三二万五、〇〇〇円を、久国福松に判示摘示事実のような趣旨で大住フサヱら二六名に手渡してもらうよう依頼して手渡したということが一応は認め得られるけれども、久国福松および久国春栄ら受供与者の捜査官に対する供述を総合すると、被告人から久国福松に手渡された前記現金は別表(一)記載の合計額である三一万七、〇〇〇円であることが認められ、被告人の供述以外の証拠で、右認定に反する証拠がない。

三、判示第四の支出総額を一四〇万一、九四四円と認定した理由。

検察官は収支報告書に記載のないものとして

1.告示前の三月二八日に選挙対策会議のための市民会館使用料六、七〇〇円があるというけれども、検察事務官の(昭和四二年六月一七日付)作成の捜査復命書によると三月二八日の市民会館使用料は二、二一〇円であることが明らかであること、当日雑費として被告人が支出した費用のあることは被告人の捜査官に対する供述によつて認め得られるけれども、被告人の供述のほかに右支出金額を認めるに足る証拠がないので、結局、当日の市民会館使用料二、二一〇円の範囲で認めた。

2.(一)タクシー代等交通費五、〇〇〇円、(二)食事代四、五〇〇円、(三)宣伝車馴らし運転のための燃料代三、〇〇〇円があるというけれども、被告人の捜査官に対する供述によれば、被告人が三月二八日ごろに右各支出をしたことのあることを一応は認め得るけれども、被告人の供述によつても右各支出金額、およびその支払先きを明らかにできず、他にこれを認めるに足る証拠がないので、右各支出は認めなかつた。

なお、

検察官は山口商店に対する支払のうち一一〇円が収支報告書に記載されていない旨いうけれども、前掲の選挙運動費用収支報告書(第一回追加分を含む)二通(昭和四三年押第四二四号の11. 12)および領収証転添帳と題するノート(同号の10)に添付の領収書を総合すると、山口商店発行の領収書八枚(その内訳は九〇円、一三五円、一、一〇〇円、一〇〇円、二八〇円、三五〇円、二〇〇円)の合計金額が二、二六五円であるのに収支報告書に記載の山口商店への支払が二、一七五円(その内訳は二二五円、一、一〇〇円、二〇〇円、一〇〇円、三五〇円、二〇〇円)であることが明らかに認められるので、検察官主張の一一〇円は一九〇円の明らかな計算上の誤りであることが認められる。

(法令の適用)

判示第一の一ないし四・第二の各所為につき

公職選挙法二二一条三項三号、一項五号。

判示第三の所為につき

公職選挙法二二一条三項三号、一項三号。

判示第四の所為につき

公職選挙法二四七条、一九六条、一九四条。

刑種の選択。

判示各罪につき 禁錮刑。

併合罪の処理。

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(もつとも重い判示第二の罪の刑に法定の加重)。

刑の執行猶予。

刑法二五条一項。

訴訟費用。

刑事訴訟法一八一条一項本文。

(量刑事由)

選挙はいうまでもなく、民主政治の基盤をなすものであり、「明るく正しい選挙」の実現いかんが政治のすべてを決定するのであるが、理想的な選挙が一朝一夕に実現できないことも残念ながらわが国の現実である。それだけに全国民あげての不断の努力が必要であり、そのために一歩でも選挙を前進させるための努力を怠つてはならない。「明るく正しい選挙」の要望が叫ばれてからすでに久しいけれども、選挙の実態は依然としてカネがかかり過ぎ、候補者はあの手、この手で選挙法の盲点を捜すことに狂奔し、さらに買収、供応などの悪質違反が選挙ごとに繰返されている。このような現状では、いつまでたつても主権者である国民の意思が正しく政治に反映することは困難である。民主政治を守るためには、まず、何をおいても選挙の浄化を期すべきであり、それには、結局国民ひとりひとりの政治意識の向上に待たねばならない。そのために何をおいても選挙は自分たちのものという意識を有権者各自に普及、徹底させ、いつでも明るく正しい選挙が日常茶飯事の行事として実施できるように切願するものである。それと同時に、選挙の公明正大、清潔明朗を冒涜した違反者には、民主政治の基盤を危うくしたものとして厳しく罰し、汚れた手を再び選挙活動に持ち込まないようその者の公民権を長期間停止することは必要なことである。

よつて主文のとおり判決する。

別表(一)(省略)

別表(二)(収支報告書に記載のないもの)

〈省略〉

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